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東京高等裁判所 昭和53年(く)94号 決定 1978年4月17日

少年 S・S子(昭三七・五・二一生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、附添人作成の抗告申立書に記載されているとおりであるから、ここに、これを引用する。

所論は、要するに、少年に対する原決定の処分が不当に重いというのである。

そこで、一件記録を調査して検討した結果は、次のとおりである。

本件は、少年が、昭和五三年一月下旬ころ素行不良のA子、B子と共に約四、五日間家出をし、この間暴走族「○○○○○」のメンバーであるC、Dの家に宿泊して、同人らと喫煙、不純異性交遊をする等正当の理由なく家庭に寄りつかず、犯罪性のある人と交際するという事由があつて、その性格、環境に照らして将来窃盗等の罪を犯すおそれがあるとの事案であるところ、原審はこれに対し中等少年院送致決定をしたものである。

なる程、少年は中学二年の夏ころから不良化し、昭和五一年八月ころから九月ころにかけて窃盗七件(うち二件は共謀)を犯し昭和五二年一月一〇日東京家庭裁判所で審判不開始となつた後、同年三月から五月にかけての窃盗(共謀)六件及び家出三回を理由とする虞犯により同年一〇月一三日同裁判所で保護観察決定を受け、東京保護観察所の保護観察に付されながら、再度不良化して本件に至つたもので、保護観察に十分なきき目がなく虞犯性が持続していることは軽視することができないけれども、本件事案の性質と、少年が未だ一五歳の少女であり(審判時中学三年生)、本件による観護措置を契機に自省を深め、再出発の決意を固めていることが窺われるばかりでなく、前記保護観察処分の効果を期待するのに、今少しく時間的経過をかす必要も認められ、担当保護司においても保護観察処分を望んでいること、両親も少年の更生に熱意をもつていること等を考慮すると、少年を今一度保護観察に付してその更生を期待することも可能と認められる余地があり、これを性急に中等少年院(おおむね一六歳以上二〇歳未満の者を収容する少年院である)に収容することは極めて疑問であると考えられるのであり、原決定の説示するところをもつてしては未だ原決定の相当性を首肯するに足りず、結局原審の処分は著しく不当であるといわざるを得ない(少年は、別件として、前記保護観察処分前である昭和五二年五月から七月にかけての暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害各一件、窃盗(共謀)二件の送致を受けており、なお、前記保護観察後の同年一二月から昭和五三年二月にかけての窃盗(共謀)二件も追送予定ということであり、原審はこれらの非行事実をも考慮して中等少年院送致を適当と認めたものであるかも知れないが、右各非行事実は原決定の処分対象とはなつていない。)

よつて、本件抗告は理由があるので、少年法三三条二項により原決定を取り消し、本件を東京家庭裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 金子仙太郎 下村幸雄)

参考二 少年調査票<省略>

鑑別結果通知書<省略>

精神状況<省略>

総合所見<省略>

参考三 抗告申立書

申立の理由

抗告の理由は、少年に対する中等少年院送致処分の原決定は著しく不当であるというにある。

いうまでもなく少年に対して保護処分を行うべきか否か、如何なる保護処分が相当であるかは、非行歴、非行事実の内容、少年の反省度、将来への影響、家庭の保護能力等を充分勘案のうえ決定されなければならない。従つておきまりのコースのように、不開始(不処分)-保護観察-少年院といつた処遇が選択されてはならない。

以下かかる角度から原決定の不当性を検討する。

(1) 虞犯事実の内容

少年は、友人らと共に約四、五日間家出し暴走族メンバー員方に泊り喫煙、不純異性交遊等を行つた、というのが原決定のいう直接の虞犯事実である。記録によれば少年は、昭和五二年一月一〇日審判不開始、同年一〇月一三日東京保護観察所の保護観察に付されている。ここで注意しておきたいことは、昭和五三年二月一六日付送致書記載の事実である。右事実は同五二年五月及び七月の非行事実であり、確かに同五二年一〇月一三日の保護観察に付する決定の理由中の事実ではないが、矯正を目的とする少年保護事件の性質上、右保護観察に付する決定以前の事実は、今回の原決定の資料として考慮することは適当でない。一旦少年を保護観察に付した以上、もつぱらそれ以後に生じた事実を以て少年の処遇を決すべきである。

右送致書による司法警察員の意見は、「現在の保護観察処分を継続することによつて少年の性格矯正と環境調整の目的が達せられると認められるから今回に限り不処分の措置相当」とするものである。

又、保護観察状況等報告書による処遇上の意見は「できれば中学卒業という新しい状況の中で、もう一度保護観察を行つてみたい」というものであつた。少年は確かに原決定虞犯事実の外に保護観察に付された以後にも窃盗を犯している。しかし施設に隔離する方法によらず、在宅のまま保護観察に処する方法は、時間をかけて自発的更生を期待する以上、それなりの過程と時間を要するものであり、少年が急変しないからといつて直ちに保護観察の効果なしとするのは、制度自体の存在意義を殺してしまうことになる。

少年が保護観察に付されたのは、同五二年一〇月一三日である。未だ半年も経過していない。この期間内に前述の事実が認められたからといつて、直ちに保護観察をうちきり少年院に送致することは早計とのそしりを免れない。保護観察の実の生じないうちに、せつかちに少年を社会から隔離するのは、力で犯罪を阻止しようとするやり方である。保護観察状況報告書によれば、決定後約二カ月は普通又はやや良好の状態にあつた。そしてその後悪化した直接の原因は、A子と親しくなつた点にある。この事実は逆に交友関係、環境によつては立直る可能性のある証拠である。

特に本件の端緒は、母S・R子の申出によるものである。両親はトルエンに興味をもちはじめた少年の身を案じ、警察の少年係に同行したものである。両親の意図は、はじめての観護措置により少年に厳しいおきゆうをすえるところにあつた。そしてこれを契機に親子共々心をひきしめ立直るためであつた。しかし結果は少年を少年院に送ることになり両親の動揺は大きく、少年の矯正にとつてマイナスの状況を呈している。

(2) 少年の反省度

少年は、少年院送致が決定した審判の席上で声をあげてないた。記録によれば少年の性格は、わがままで粗暴とある。少年は、甘さと厳しさの極端なあつかいの中に育つたため克己心をもたぬまま非行に走つたといえる。少年は、観護措置期間にもA子に近づこうとしたなど好ましい態度になかつたことを指摘されているが観察記録中にもある「友人と一緒でなければ落着かない」との性格から生じた行動で、反省の度合とは直接結びつかない。

少年の両親宛の手紙は、強い反省の心にあふれ、又本を読む楽しみを発見したとの事実は、少年が自己をかえりみる糸口をつかんだ証拠である。

(3) 将来への影響

少年は、一五歳の少女である。やがて恋をし、妻となり、母親となるであろう。しかし一五歳の少女に、少年院出身というらく印は、如何にも重い。保護処分という形式的方法はどうあれ、少年院経験が前科の一つと解釈が、一般である。特に少年のように友人の影響を著しく受ける者にとつて、友人選択の自由のない環境は、逆の危険をもたらす心配もある。

(4) 原決定の否定した家庭の保護能力

記録の指摘するところ、両親の保護能力の欠如である。

父親は、口べた、非社交的であるため、誤解をうけている面もある両親は少年の更生のためなら如何なる犠牲もはらう覚悟をしており次女が近々に結婚するため、この機会に佐倉市に有する家屋に転居し、従来の友人知人関係を一切断つ決心である。両親は、以後の人生を少年の再起にかける所存である。

以上述べたところから、原決定は不当であり、取消うるべきものと思料する。

編注 受差戻審決定(東京家 昭五三(少)四八六八号 昭五三・六・八保護観察決定)

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